「お肉のよもやま話」料理で再発見!お肉の魅力、おいしい秘密 2022年11月号
週刊いな「お肉のよもやま話」2022.11.24
今回は「せせり」についてご紹介させて頂きました!
ジューシーな「せせり」は、焼き鳥屋さんでも人気部位のひとつ。
どこの部位だかみんな知っとって食べとるのかなあ?
せせりは、首回りの部分で、骨から肉をせせる(ほじる)のが、語源になっとるようだ。
ほじる、なんて言葉が語源のようだから、わずかしか取れない部位なんだに。
よく動く首の部分で、筋肉質で程よく身が締まって弾力があって、適度な脂を含む。
ウチでは、「ネック」という名前で、けっこう販売してきた。
ほかにも、「み、ネック、こにく、きりん」なんて呼ばれることもあるわなー。
鶏ガラの中でも、一番味を出してくれるところは、首。
首周りのお肉は味が濃いんだぞぉ。
「せせり」と言えば、鶏肉だけのイメージの方は多いと思う。
でも、どんな動物にだって、首の部分があって、わずかですがお肉として食べられています。
ウチで扱う、せせり肉は、鶏・豚・羊・合鴨・猪の5畜種。
お肉の好きな方たちの中では、タン好き、レバ好きなど、
特定の部位が好きな「部位好き」な衆って結構おって、当然熱狂的な「せせり好き」な方がおられます。
畜種によってせせりの味も違うので、その違いを食べ比べして楽しんで下さってますに。
山の猟師の間じゃ「猪のせせり」が最も美味だとされています。
長野県だけではなく、九州各地(宮崎・大分等)、沖縄、山梨、浜松・・・
各地の猟師が口伝で「首肉が最も美味」だと伝え、首肉に執着してきたようだに。
日本民俗学の開拓者柳田國男さんの「後狩詞記(のちのかりことばのき)」は、
日本民俗学の出発点と位置づけらとるみたいだけど、基本的には狩猟文化に関する学術書。
猪狩り、猪猟がテーマになっとって、その本のなかでも、次のように記されている。
「ツルマキ。絃巻。猪の首の肉なり。輪切りにしたる所絃巻に似たり。味最美なりとす」
猪肉の中で、最も美味だとされる部位は「首肉」だと伝えられているということが、口伝だけでなく、
書物にも記されていることに、オラは感動を覚えたなぁ。
ところで、「後狩詞記(のちのかりことばのき)」という題名は、
江戸後期に編集された古文献の全集「群書類聚」に収められた「狩詞記」を意識したものらしい。
「狩詞記」は、中世の典雅な鹿狩り作法の書。
鉄砲が導入される以前、弓矢などを用いた鹿狩りの様子が書かれている。
明治時代中期以後、鉄砲が普及したため狩猟の方法は大きく変化したわな。
柳田国男さんは、山岳地帯の生業としての古典的な猪猟の様子を記してくれた。
オラは舞台となった九州の椎葉村には行ったことがないけど、
山岳地帯であること、大物猟や、犬を使った猟をしていること、湯立神楽を伝承していること、など、
遠山郷とも共通点があって、シンパシーを覚える。
オラもやがて、柳田さんに倣って、「後々肉詞記(のちのちのにくのことばのき)」なんて、
山の肉屋が採集した、お肉にまつわる話の数々をまとめてみようかな。もちろん引退したら、だけど。